ドイツ型樹木葬とは

ドイツ型樹木葬の特徴

ドイツ型樹木葬では郊外の森林を利用します。森林の木々をそのまま墓標とし、その根本にご遺骨を埋葬します。
家族で使う木や、友達と使う木があり、木の根元の周りに埋葬するのが主流です。森全体のどこに埋葬されているかわからないお墓もあり、個人個人のニーズに合わせた選択ができるようになっていることも特徴です。

北海道大学 上田先生より「ドイツ型樹木葬」について

関西のみなさん、こんにちは。

北海道大学准教授の上田裕文(うえだひろふみ)と申します。ドイツの樹木葬について少しお話することができればと思います。

ドイツの樹木葬墓地は、2001年にヘッセン州のラインハルトの森(通称、メルヘンの森)の一角に誕生しました。グリム童話の舞台として観光地でもあるこの美しい森に、ドイツで最初の樹木葬ができたのは象徴的です。まさに、「お墓参りをピクニックに」というモットーに最適の場所だったと言えます。

その特徴は、まさにメルヘンの森から想像されるような、古い木々が大きく育った明るい森です。その木々の根本に、土の中で分解される骨壺に入れた遺骨が埋葬されます。木の幹に取り付けられた小さなネームプレートに、故人の名前や生没年月日が記されている以外は、その他の森と何ら変わらない風景が広がっています。時折、添えられたお花やメッセージ入りのオーナメントが目に入り、この森を訪れ、祈りを捧げている人たちがいることがわかります。

ドイツの樹木葬墓地の特徴は、持続的な森の管理の仕組みです。林業大国ドイツらしく、専門家による森の管理が続けられる中で、その森をお墓としても使います。とは言っても、樹木葬墓地の木々が伐採され、木材になるというわけではありません。森の中の、木材生産ではなく自然保護のために残す場所がお墓として用いられています。この点は、日本で多くみられる、墓石の代わりに樹木を植えただけの、名ばかりの樹木葬とは一線を画します。まさに、「森をお墓にしたドイツと、お墓を森っぽくした日本」の間に大きな違いがあります。

ドイツの樹木葬は、もともとは埋葬が自由に行われるスイスの自然葬のしくみを、日本同様に埋葬のルールが厳しいドイツの法律に合わせて導入したものです。つまり、法律的にグレーな陸上散骨などとは異なり、きちんと墓苑の許可を得た森林内に埋葬するしくみです。今では、全国で500箇所以上の樹木葬墓地がつくられ、ドイツ人の約5%以上が既存の墓苑ではなく、森に眠ることを選んでいます。

ドイツにおける樹木葬の原点は、100年ほど前のロマン主義までさかのぼることができます。人々が都市よりも自然の中に埋葬されることを望んで誕生した「森林墓地」の伝統がベースになっているのです。ヨーロッパの墓地はどこも自然豊かで、魅力的な観光地になっている場所も少なくありません。それらは、日本に「公園墓地」として紹介され、近年なって急速に広まっています。ドイツ型の樹木葬墓地は、その延長線上に位置付けられる自然葬の墓地形態で、日本においても今後、人々の価値観は次第にこうした形に移行していくのではないかと思われます。

北摂霊園の樹木葬墓地は、まさに日本社会の成熟化に伴う墓地形態の変化を先取りしていると言えるでしょう。

上田 裕文 / UEDA Hirofumi

北海道大学 准教授

留萌生まれ。東京大学農学部森林環境科学専修卒業後、東京大学大学院農学生命科学研究科森林科学専攻修了。ドイツ学術交流会(DAAD)奨学生としてカッセル大学建築・都市計画・景観計画学部、都市・地域社会学科にてDr. rer. pol. (経済社会科学博士) を取得。札幌市立大学デザイン学部を経て現職。専門は風景計画。著書に、『The Image of the Forest』(Sudwestdeutsche Verlag fur Hochschulschriften、2010)、『こんな樹木葬で眠りたい』(旬報社、2018)他。

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